ガザの戦闘で、薄れていたシリア内戦が再燃した。シリアではアサド政権に対して、IS系列の反政府勢力とが対立をしている。アサド政権はロシアやイランが、反政府勢力はトルコ・アメリカなどが支援している。今回の反政府勢力の攻撃は、ウクライナ戦争で手薄になったロシアからの支援に便乗したものである。反政府勢力は北部アレッポをあっという間に制圧し、中部のハマからホムスまで侵攻した。これは政府軍の拠点の首都ダマスカスと地中海へのルートを寸断したことだ。つまりロシアからの支援ルートが占拠されたことになる。もっとも今のロシアには地中海に展開する艦隊の余裕はない。アサド自身が亡命する可能性は確実な情勢だ。
シリアは中東最大の戦略的拠点に位置する。西欧諸国はサウジアラビアなどの湾岸諸国から石油を輸入している。しかし近年、ロシアからのパイプラインによってエネルギーの依存を深めた。それがウクライナ戦争により途絶えた。ロシアの戦略により、イエメン・フーシ派に紅海を封鎖しスエズ運河の通航の妨害をさせた。欧州はエネルギー危機を招き、物価高に苦しんでいる。当然、欧州は円滑なエネルギー輸送を望んでいる。ペルシャ湾岸からエネルギーを輸送するパイプラインの敷設は積年の課題である。シリアを友好国にすれば、トルコを経由して欧州へのルートが確保できる。
シリアルートの開設で、最も困るのはロシアある。エネルギーによる欧州侵略構想が破綻する。石油・天然ガスの輸出先は中国しかなくなる。持てる国が資源を持て余し、国力を減衰させる。シリアのISがどのような政治を目指すかに不安は残るが、ウクライナ侵略で国力を減衰させたロシアには、それに見合うだけの戦果は得られないであろう。